肌寒さに身震いをしてネコ娘が目を覚ますと
窓の外一面、雪景色だった。
こんな日はずっと布団の中で丸まっていたいが
鬼太郎に頼まれた本を、今日届ける約束になっている。
猫妖怪であるが故、寒さは苦手だが
鬼太郎に逢えるとなれば話は別だ。
サッサと起きだし、身支度を整えると
本と少しの食糧を持ち、家を後にした。
誰にもまだ汚されていない雪の上に
ネコ娘の足跡だけが続いていく。
見渡す限りの銀世界・・・
誰の姿も見えない。
時折、森の木々に積もった雪が重さに耐えかね大きな音をたて落ち
ネコ娘を飛び上らせるが、それ以外は雪を踏みしめる
自分の足音だけしか聞こえない。
不意に真白な世界に自分ひとりが閉じ込められたような錯覚に囚われて
心細くなる。
−−−早く鬼太郎に会いたい・・・−−−
ネコ娘が足を速めようとした時、
木々の向こうから苦しそうな呻き声らしきものが
ネコ娘の耳に届いた。
その声は途切れ途切れだが、息使いも荒く
助けを求めているように聞こえる。
−−−大変!誰か怪我でもしたのかしら?−−−
ネコ娘は声のする方へと歩いて行った。
雪が深くとても歩き難いが、やっと声の近くまで辿り着いた。
顔を上げ、その姿を見止めた瞬間、ネコ娘の身体が凍り付く。
そこには・・・
睦み合う男女の姿があったのだ。
女の胸飾りを舌で転がす男。
その指は女の秘所で蠢いている。
女は耐え切れぬように喘ぎ声を洩らす・・・
ネコ娘は自分の勘違いに気付き、すぐにこの場を離れようとするが、
あまりの驚きに身体が金縛りにあったように固まり
動くことが出来ない。
そうしているうちにも、今度は女が男の股間に顔を埋めた。
ネコ娘は目をギュッと閉じたが、その耳には淫らな水音と
男の荒い息使いが響いてくる。
−−−お願い!私の身体、動いて!!−−−
心の中でそう叫んだネコ娘の背後から手が伸び
誰かに口を塞がれてしまった。
「シィ・・・静かに・・・」
耳元で囁かれた声は、紛れもなく鬼太郎の声だ。
鬼太郎はそのまま彼女の手をとると
ソッと静かにその場を離れた。
先程の事も驚いたが、急に現れた鬼太郎にも驚かされ
ネコ娘は口をパクパクするだけで声にならない。
そんな彼女の様子に鬼太郎は吹き出しそうになるのを堪え
また耳元で囁いた。
「余計なこと、しちゃったかなぁ?」
意味が分からず戸惑うネコ娘に
鬼太郎は意地悪な笑みを浮かべる。
「随分熱心に見てたようだからねぇ・・・」
ネコ娘は真赤になり、猫化して否定する。
「ちがっ・・・違うわよ!
驚いて身体が動かなくなっただけよ!!」
「へぇ〜・・・そう?」
鬼太郎がニヤニヤ笑うのを見て、ネコ娘は泣きたい気分だ。
一体いつから鬼太郎に見られていたのだろう・・・
恥かしさと信じてもらえない悔しさで
ネコ娘はこのまま自分の家に走って帰りたい気持ちになった。
しかし、鬼太郎がネコ娘の手から荷物を受け取り
「こんな所に長くいたら凍えちゃうだろ?
早く行こう」
と、いつもの笑顔で言うので、ネコ娘はトボトボとついて行った。
ゲゲゲハウスに着くと、卓袱台の上の茶碗が伏せられていて
この家の小さな主が留守だとわかった。
「親父さんは?」
「砂掛けや子泣きと今朝早く温泉に行ったよ」
「そう・・・」
二人きりのゲゲゲハウス・・・
しかも鬼太郎には誤解されたままであろうと思うと
やはり居心地は悪く、家に帰りたい気持ちが一層強くなる。
「鬼太郎・・・私・・・」
−−−帰るねーーーその言葉を遮るように
鬼太郎がネコ娘の腕を掴んだ。
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