♪指切りげんまん 嘘ついたら 針千本 飲〜ます 指きっ・・・♪
ネコ娘の唄を遮る様に鬼太郎がクスクス笑いながら口を挟む。
「約束を破ってもボクは簡単に針千本飲めちゃうよ?」
よく考えればそうだ・・・何か他に鬼太郎がこんなことをする位だったら
絶対に約束を守ろうと思ってくれる罰事はないものか・・・
思案するネコ娘の耳に鬼太郎が顔を近づけ囁いた。
「もしボクが約束を破ったら・・・ネコ娘の言うことをひとつだけ聞いてあげるよ」
「ホント?!!」
ネコ娘の顔がパッと華やぐ。
「もし・・・ネコ娘が約束を破ったら、その時はボクの言うことをひとつ聞くんだよ?
それでもいい?」
二人の小指はまだ解かれないまま鬼太郎が闇の影を纏うが、はしゃぐネコ娘は気付かない・・・
「もちろん!私が鬼太郎との約束を破る訳な・・・」
♪指 きった・・・♪
ネコ娘の言葉が終らぬうちに鬼太郎の小指が勢いよく離された・・・
−−−ボクとの約束は・・・絶対だよ・・・ネコ娘・・・−−−
今まで彼女と絡めていた己の小指をペロリと舐め上げ、喉まで込み上げてくる笑いを
鬼太郎は静かに飲み込んだ・・・
小指を絡めての約束・・・それは、鬼太郎と二人での夜桜見物だ。
事の始まりは、いつものように他愛もないこと・・・
ネコ娘が仕事で不在の間に鬼太郎とねずみ男の二人が夜桜見物に行ってしまったのだ。
最初に桜が咲いたら夜桜を見に行こうと誘ったのは彼女なのに・・・だ。
その時にねずみ男もいたのだが、当然ネコ娘が声を掛ける訳がない。
「あいつ・・・私への嫌がらせのつもり?!!」
しかし、ここで怒っていても仕方ない・・・もう二人は行ってしまったのだ。
後を追う様な野暮な真似はしない・・・鬼太郎とてたまには男同志で話したい事があるのだろうから・・・
それが例え、あのねずみ男であっても・・・いや・・・ねずみ男だから・・・か・・・
−−−悔しいけど・・・鬼太郎にとってアイツは特別な存在なのよねぇ・・・−−−
ネコ娘の薄紅色の唇からひとつ小さな溜息が洩れた。
鬼太郎との約束当日・・・
バイトは夕方には終わる・・・それから横丁に戻りお風呂に入って着替えても
充分待ち合わせの時間には間に合う・・・
ネコ娘が店の時計をチラリと見てそう思った時だった・・・
「今、店長から電話があって、車が故障して動かなくなっちゃったから
店長が来るまで誰かひとり残業してってさ」
急にそう言われても、誰しも予定というものがある。
勿論、ネコ娘も今日は鬼太郎との大事な約束が入っている・・・しかし・・・
−−−誰か残らないと、お店これから混む時間だし・・・
鬼太郎との約束は6時・・・店長もそんなには遅くならないわよね・・・?−−−
世話好きで自分より他人を優先させるネコ娘がこの状況を黙って見過ごせる筈もない。
「わかった!私が残るから、大丈夫よ!」
ネコ娘は笑顔で胸を叩いて見せた・・・
時計はもうすぐ6時を指そうとしている・・・が、まだ店長は来ていない。
取り敢えず、遅れることを鬼太郎に連絡しようとネコ娘がポケットに忍ばせた携帯を掴んだ
丁度その時、
「猫さんが残ってくれたんだ!遅くなって、ごめん!!」
店長が駆け込んで来てくれた。
−−−良かったぁ〜!!−−−
これならそれ程鬼太郎を待たせなくて済むだろう。
ネコ娘は店長に慌しく挨拶をすると急ぎ着替え、裏口のドアを開けた。
すると・・・
「・・・5分遅刻だよ・・・」
含み笑いを零した鬼太郎が目の前に立ち、ネコ娘を驚かせた。
「鬼太郎?!!迎えに来てくれたの・・・?」
待ち合わせの場所は森の入口・・・いくらどこにでも行ける灯篭を通ったとしても
こんなに早く来られるだろうか・・・?
怪訝な表情を浮かべるネコ娘に、鬼太郎はいつもの笑顔を見せ
___早く行こう___という様に彼女の手を取り歩き出した。
人間界の住宅地にある狭い路地を曲がり、妖怪横丁を突き抜け森の奥へと入って行く。
−−−私の家の方向だけど・・・?−−−
だが、ネコ娘の家の傍に桜の木など無い。
それでも鬼太郎はどんどん彼女の家の方へと歩いて行き、
とうとう二人はネコ娘の家に着いてしまった。
「今日は夜桜を見に行く約束でしょ?家の傍に桜の木なんて・・・」
頬を膨らませ怒るネコ娘に鬼太郎はポケットから袋を出し
「よく見ててごらん」
中から黒い粒を地面にパラパラとばら蒔いて見せた。
「えっ?何これ?!!」
ネコ娘の目の前で黒い粒は瞬時に芽を出し、見る見るうちに大きく育っていく。
そして枝についた蕾が次々と花開かせ、あっという間に満開となっていった。
が、灯の無い暗い森の中では折角の桜も綺麗には映らない・・・
そこで鬼太郎が口笛を吹くと、どこからともなく現れた狐火が
桜の木々をライトアップしてくれた。
「綺麗!!鬼太郎!ありがとう!!」
嬉しさの余り鬼太郎に抱きつくネコ娘の耳に鬼太郎が込み上がる笑いを噛み殺しながら
優しく囁く・・・
「ボクはちゃんと約束を守ったよ・・・今度はネコ娘の番だよねぇ?」
ネコ娘の目の前に鬼太郎が小指を差し出して見せる。
「わ・・・わかってるわよぅ・・・ひとつだけ鬼太郎の言うことを聞けばいいんでしょ?!」
少しだけ警戒しているような彼女の声色に鬼太郎の隻眼が愉しそうに弧を描いた。
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