次の日・・・ネコ娘のことが気になりながらも鬼太郎はねずみ男探しをしていた。
懲りるということを知らないねずみ男が闇市で見つけた怪しげな薬を【惚れ薬】と称して高値で人間に売り、
何の効果も得られないと買った人間から苦情が殺到したからだ。

「だいたい心を薬で操ろうとする人間も悪いですよ・・・騙されたって自業自得ですよね」

そう父にボヤキながらもねずみ男探しを優先したのは
やはり“理沙”が悪い霊ではないと感じたからに他ならない。

不自然にこの世に止まっている霊は宿主の生気を吸い取り続ける・・・
しかし昨晩、鬼太郎がネコ娘に生気を分け与え、対処は出来た。
今晩“理沙”が旅立つまでだったら、彼女の身体は耐えられる筈だ・・・
ここで鬼太郎は気を許してしまった。
もし・・・彼が恋する少女の複雑に揺れる想いを解っていたら
何よりネコ娘を優先させた筈だが・・・




人間界の高級レストランから腹を擦りながら出て来たねずみ男を捕まえた時には
もう空は夕闇包まれていた。

「イテッ!イテテッ!!分かったよ!返しゃぁいいんだろ!返しゃぁ・・・」

鬼太郎がねずみ男の耳を思いっ切り引っ張り、路地裏に連れて行くと
握っていた数枚の札を砂掛けが引っ手繰り、子泣きがまだ隠していないか
薄汚れたマントを探る。

「コイツ!こんなとこにも隠しておったぞ!」

マントの隠しポケットから子泣きが札束を見つけ、ねずみ男を囲む誰もが
呆れ顔になる。
騙し取った金は、ねずみ男が持っていた顧客リストから砂掛けと子泣きが人間に返すこととなり、
鬼太郎と目玉の親父はねずみ男に説教するために彼を連れ、
ゲゲゲハウスへと戻って来た。

「ネコ娘に人間の彼氏が出来たからって、オレ様に当たるこたぁ〜ねぇだろうよ!!」

「まだそんなことを・・・でもまぁ・・・そのお陰でネコ娘は
 大事には至らなかったがのぅ・・・」

「へっ?なにそれ?あの猫女、何かやらかした訳?」

ねずみ男が目を輝かせ尋ねた。
ここで昨晩のことを目玉の親父はねずみ男に聞かせた。

「じゃぁオレ様が見たのは“理沙”って霊が人間の男とデートしてただけなのかよ!
 道理でオレの気配に気が付かなかった筈だぜ!あの凶暴猫女がよぅ!!」

鬼太郎の隻眼がねずみ男を睨むが、そんなことは慣れっこだ。
それより・・・

「でもよ・・・それってヤバくねぇか?」

「彼女の霊は悪いモノじゃなかったし、ネコ娘の生気も暫くは大丈夫だよ。
 お前・・・ボクらを脅かして逃げようって魂胆なんだろ?」

全てお見通し・・・という様にしたり顔でそう言う鬼太郎に
今度はねずみ男が呆れた顔をした。

「ホント、お前は色恋に疎いっていうか・・・鈍感っていうか・・・
 そのうち本当にネコ娘の奴に愛想尽かされるぜ!
 いいか?よ〜く聞けよ!!」

ねずみ男曰く・・・
もし“理沙”の想い人が来なかったら、“理沙”の霊は動揺し豹変するかも知れない・・・
その反対に来たら来たで、もっと傍に居たいと思うのが恋する娘っ子の気持ちというもので
どっちに転がっても身体を貸しているネコ娘の身が乗っ取られる可能性が高い・・・と言うのだ。

「鬼太郎ちゃんよぅ・・・すっかり油断しちゃってるけど、どうなってもオレは知らねぇからな!」

「父さん!!」

「すぐにネコ娘の元へ向かうんじゃ!!」

鬼太郎は素早く下駄を掴むと、そのまま裸足でゲゲゲハウスを飛び出して行った。

「アレッ?!親父は行かねぇのかよ?!!」

「わしはお前さんの見張りじゃ!」

折角熱弁をふるったのに・・・ねずみ男がガックリと肩を落とした・・・
やはり逃げる算段だったらしい・・・






月の灯がボンヤリと公園に佇むネコ娘の姿を借りた“理沙”を照らす。
約束は7時・・・公園の時計はすでに8時になろうとしている。

−−−どうして?絶対来るって言ったのに・・・−−−

動揺する“理沙”をネコ娘が宥める。

『ちょっと遅れてるだけよ・・・信じて待ちましょ』

−−−もともとただの幼馴染の私が死んだって、彼の悲しみはすぐに薄れて
   私は忘れ去られるだけなんだわ!!−−−

“理沙”の言葉にネコ娘の胸がズキリと痛む。
が、彼女の霊気がだんだんと闇に染まると同時に急激に生気が吸い取られていくのを感じた。
“理沙”を落ち着かせなければ・・・だが、頭がクラクラして何も考えられない・・・

−−−ネコ娘さん・・・あなたの身体、私が貰うわ!
   ずっとずっと彼の傍に私は居るの・・・私を忘れさせない為にはそうするしかない−−−

『もう・・・駄目・・・きたろ・・・』

自分の身体の奥底で、ネコ娘の身体が崩れ落ちていった・・・


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