油断


昼下がりのゲゲゲハウス。
目玉の親父は新聞の上で1つ1つの記事を見て回り、
鬼太郎は窓の傍で昼寝の真っ最中だ。

暫くすると、ねずみ男が階段を上って来る気配がしたが
どうせまたいつもの下らない話だろうと
鬼太郎は寝たふりを決め込んだ。
が、それにしても・・・いつもは騒がしい男が
今日は足音を忍ばせて上がって来る。
少し妙に思うが、関わるだけ面倒だ。

「親父・・・鬼太郎は?」

ねずみ男が声を潜めて聞く。

「眠っておるよ。鬼太郎に何か用か?」

「いや・・・寝てるならいいんだけどよぅ・・・
 最近、ネコ娘・・・来たか?」

『ネコ娘』と聞いて、鬼太郎の身体が小さくピクリと反応したが
二人は気付かず、話を進める。

「ここ何日か姿を見せぬが・・・
 ネコ娘に何かあったのか?!」

しかし、彼の娘に何か異変があれば、息子・鬼太郎が気付かぬ筈がない。
だが・・・毎日の様に顔を見せていたネコ娘が、鬼太郎に何も言わず
このゲゲゲハウスに何日も来ないのは、やはり気にかかっていた。
目玉の親父は心配の余り、自然と声が大きくなるが
慌てたねずみ男に目玉ごと塞がれてしまう。

「シィーッ!鬼太郎が起きちまうだろうがよぅ!
 身体は小さい癖に声だけはでけぇんだから・・・全くよぅ!!」

ねずみ男がブツブツ文句を言いながら
寝ている鬼太郎をチラリと見たが、すっかり寝入ってる様子に安心して
目玉の親父から手を離した。

「昨日夕方、オレ見ちゃったのよ・・・」

先程より一層声を潜めてねずみ男は話し始めた・・・



ねずみ男がいつものように人間界でゴミを漁ろうとブラブラしていると
公園のベンチで仲良さそうに並んで座るネコ娘と人間の男が目に飛び込んできた。
もしかすると、天敵・ネコ娘の弱みが握れるチャンスかも知れない・・・
ねずみ男はソッと二人に近づいた。
が、すぐにネコ娘と男は立ち上がり、公園を出て行く。
当然、後をつけたが、人混みに紛れて途中で見失ってしまった・・・
と、悔しそうな顔をした。

「あの猫女!アルバイト、アルバイトって働きモンの振りしやがって
 どんなアルバイトだか分かったもんじゃ・・・」

その言葉が終らぬうちに寝ているとばかり思っていた鬼太郎に
首を締め上げられる。
あまりの苦しさにねずみ男はジタバタと暴れるが
鬼太郎は締め上げる力をなおも強め静かに口を開いた。

「ねずみ男・・・今のは面白い冗談とは言えないなぁ・・・」

感情の一切籠って無い低い声だ。
目玉の親父は慌てて

「こりゃ!鬼太郎!本当に死んでしまうぞ!!」

必死で止めに入る。
その父の言葉で鬼太郎はねずみ男から手を離すが
まだ彼の隻眼はねずみ男を許してはいない。

ゴホゴホ咳き込みながらねずみ男は

「だから寝てるかどうか確かめたのによぅ・・・」

恨みがましい目を目玉の親父に向ける。
が、当然そんな視線は無視され、目玉の親父が口を開いた。

「鬼太郎が怒るのも無理はない。全くいい加減な話をしおって・・・
 お前がそんなに傍をウロチョロしてあのネコ娘が気付かぬ筈がないではないか!!」

鬼太郎はハッとしたように顔を上げた。
冷静に考えればそうだ。
ネコ娘とねずみ男・・・お互いに気配を探る気などサラサラ無くとも
近くに来れば分かってしまう。
分かってしまえば、もう本能が止められない。
もう何度見たくも無いそんな場面を見せつけられてきたことか・・・

「お前・・・見間違えたんじゃないか?」

鬼太郎の問いにねずみ男が反論する。

「オレがあの猫女を見間違える訳ないっつ〜の!!」

目玉の親父は腕を組みながら先程からのねずみ男の話を暫し考えていたが
やはりどうしても通常のネコ娘の行動とは思えない。
あのネコ娘が人間の男と・・・?
第一、もしそんなことがあれば鬼太郎が昼寝など悠長にしている訳がない。

「鬼太郎・・・何も気付かなかったのか?」

「何も・・・という訳じゃ・・・少し前からネコ娘の気配に雑じる様に
 時々人間の少女の気配を感じてはいましたが・・・
 友達でも出来たのかと思っていました」

「本当に人間の少女ならば何も心配はいらんが・・・
 ネコ娘がこのねずみ男に気付かなかったことを考えると
 わしはただの人間と関わっているとは思えんのじゃよ」

「そう言えばよぅ・・・」

二人の会話にねずみ男が思い出しように口を挟んだ。

「あの時のネコ娘・・・いつもとはちょっとばかり違ってたような・・・
 笑い方とか話し方がもっとこう・・・女らしいっつ〜か・・・」

鬼太郎の顔色がサッと変わり、目玉の親父を振り返った。

「父さん!」

「うむ・・・これは本人に確かめてみるしかあるまい・・・」

鬼太郎と目玉の親父は深刻な事態を想像し慌てるが、
そんなことに全く気付かないねずみ男はいつもの調子で

「えぇ?!!ネコ娘本人に『人間の彼氏が出来ましたか?』って聞くのかよ?
 やだねぇ〜!!シツコイ男は嫌われるぜ!鬼太郎ちゃんよぅ!」

大袈裟な振りで鬼太郎をからかったが、そんなねずみ男の言葉などまるで耳に入って無いかの様に
鬼太郎は目玉の親父を頭に乗せると素早くゲゲゲハウスを出て行った。

「なんだよ!オレ様が持って来てやった情報じゃねぇか!
 礼ぐらい言えっつ〜の!!」

ひとり残されたねずみ男はブツブツと文句を言うが、これ以上関わってまた先程の様に
とばっちりを受けたら大変とばかりにソソクサとゲゲゲハウスを後にした。
 

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