片想いの胸がキュンと切なくなる感覚も、目と目が合った時のドキドキ感も
それがほんのひと時ならとても楽しいことだろう・・・

−−−でも・・・私の場合は長過ぎだよ・・・ね・・・−−−

いっそ嫌われているのなら諦めもつく・・・
だが、彼は自分を仲間として大事に思ってくれている・・・

−−−お友達・・・かぁ・・・−−−

街に出ればすれ違う男たちが振り返り、お茶に誘って来る・・・
交際を申し込まれることなど数え切れないほどだ・・・
その誰もが自分を美人で気が利いて理想の女性だと持て囃す・・・
でも・・・それでも・・・
唯一振り向いて欲しい彼に相手にされないのなら何の意味があるのだろう・・・

−−−鬼太郎の・・・バカ・・・−−−

こんなに想っている自分を振り向いてくれない彼は馬鹿だ・・・
そして・・・
それでも諦められない自分は・・・もっと・・・


ネコ娘は飾られていた写真立てを伏せ約束の時間よりは大分早いが
レストランに向かう為に立ち上がる・・・
その伏せられた写真立てには・・・鬼太郎とネコ娘の屈託の無い笑顔が飾られていた・・・







ねずみ男からネコ娘の例の話を聞いてから、鬼太郎の心は落ち着かない。
・・・と言うのも、彼女の口から食事会の話など一切出てはこないからだ。
妖怪と違い人間はいろいろと忙しい・・・食事会そのものが立ち消えになったか・・・?
それとも・・・ねずみ男の言う様に他の誰かに彼の振りを頼んだのだろうか・・・?

−−−振り・・・?本当に振りだけなのか・・・?−−−

鬼太郎の胸の中で漆黒の闇がザワザワと騒ぎ出す・・・

「いた!いた!!やっぱり・・・だと思ったぜ!」

ねずみ男はズカズカと上がり込んでくるが、今はこの男の戯言を聞いてやる心境では無い。

「鬼太郎ちゃんよぅ・・・ガキの頃ならいざ知らず、そのうちホント、誰かにかっ浚われても
 知らねぇからな!
 オレは親友のお前の幸せを願えばこそ、こ〜して忠告してやってるんだぜ!」

いや・・・違う。
もしそうなった場合、とばっちりを喰うのは目に見えているからだ。
ネコ娘が鬼太郎以外の男を選んだら・・・考えただけで背筋に冷たいモノが走る・・・

「お前・・・一体何が言いたいんだ?」

「だから!!今日の【彼氏同伴食事会】の話に決まってんだろうが!!」

「えっ?・・・今日・・・?」

鬼太郎の表情がピクリと動く・・・

「まぁ・・・結局あの猫女の奴、誰にも彼氏の振りは頼まなかったみてぇだけどな。
 でもよぅ、【彼氏同伴食事会】に一人っきりってぇのも惨めだぜぇ?!」

言いながらねずみ男は鬼太郎の表情を窺う・・・すると鬼太郎がスクッと立ち上がった。

「待ってました!鬼太郎ちゃん!!用意は出来てるぜ!!」

ねずみ男が手に持っていた風呂敷包みを鬼太郎に放り投げる・・・




鬼太郎が出て行った後のゲゲゲハウスでねずみ男がひとり、お茶漬けをかき込んでいる・・・

−−−借りは返したからな・・・ネコ娘−−−

それはある時のこと・・・
ねずみ男は空きっ腹を抱えへたり込んでいた。
誰もが見て見ぬ振りをする中、ネコ娘が大きなタッパをねずみ男に差し出したのだ。

『作り過ぎちゃっただけなんだからね!余り物よ!余り物!!』

ちょっと怒ったような口調にツンとした表情は少女の頃そのままだ。
ねずみ男がタッパを受け取ると、ネコ娘は急ぎ駆け出して行ってしまった。
蓋を開けると・・・おにぎりに卵焼き、焼き魚や煮物が綺麗に並べられている。

『バカ猫・・・こんなに・・・作り過ぎだっつ〜の・・・』

おにぎりを頬張るねずみ男の声が少しだけ掠れて聞こえた・・・

先日【彼氏同伴食事会】のことで鬼太郎を煽ったのは嫌がらせもあったが、
もう一つはネコ娘の為に鬼太郎の危機感を煽る狙いもあったのだ。

−−−まぁ・・・よ・・・ここらで借りを返しとかねぇと
   また助けてもらえねぇし・・・な・・・−−−

すっかり御櫃を空にしたねずみ男もまたゲゲゲハウスを後にした・・・





ネコ娘がレストランに着いた時にはまだ誰も来てはいなかった。
それもその筈・・・
まだ一時間も約束の時間より早いのだから・・・
周りを見回せばカップルだらけ・・・わざわざカップルに人気のお洒落なレストランを
後輩二人が選んだのだ。
居心地が悪い・・・でも、それも仕方ない・・・自分が蒔いた種なのだから・・・

そのうちテーブルのあちらこちらでカップルが小声で喧嘩し始めた。
男の方がネコ娘に見惚れた所為だろう・・・
が、当のネコ娘には全くそんな自覚は無い。

−−−こんなお洒落な処・・・鬼太郎は絶対無理よね・・・
   帰りにテイクアウトで鬼太郎にお土産買って行こうかな・・・−−−

今頃きっとあのゲゲゲハウスで一人お茶漬けでも食べているのだろう・・・
目玉の親父は砂掛け達と湯治に出掛けたまま、まだ当分は戻りそうにない。

「猫先輩!お待たせしましたぁ!私の彼の恭司です!!」

沙希に声を掛けられ慌てて立ち上がりネコ娘は二人に挨拶をした。

「ところで・・・猫先輩の彼は・・・?」

ネコ娘の胸がドキリと鳴る・・・もう謝る覚悟はとっくに出来ているが
やはり寂しくて悲しい気持ちでいっぱいになる。

「・・・うん・・・詩織ちゃん達が来たら・・・」

思わず言葉を濁してしまう・・・

暫くして店のドアを開け詩織と彼が姿を現した。

「詩織!!こっち!!こっち!!」

沙希が手を上げると詩織と彼が手を繋ぎこちらに向かって来た。
ネコ娘は先程と同じ様に立ち上がり、沙希と彼に挨拶をする・・・

いよいよ・・・ネコ娘が本当の事を言う番だ。
一度大きく深呼吸したネコ娘が思い切って口を開く・・・





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