ネコ娘が指輪を拾ったという場所へ鬼太郎親子が向かった後も、
ねずみ男は妖怪アパートに残り、腕を組み指輪の記憶を呼び起こそうとしていた。

−−−確かに見たことあんだけどなぁ・・・−−−

思い出せそうで思い出せない・・・だんだんとねずみ男がイラついてきた頃、
天井から彼の目の前に一本の糸を垂らし大きな蜘蛛が降りて来た。

−−−やだねぇ〜・・・これだからボロアパートはよっ!
   蜘蛛まで住み着いてやがる・・・あれっ?蜘蛛?・・・あっ!思い出した!!蜘蛛だぜ!!−−−


あれは・・・ひと月程前だったか・・・
路地裏に出ている屋台でねずみ男が安酒を飲んでいると、
どこからともなく女が現れ、声を掛けてきた。

「兄さん・・・あの有名なゲゲゲの鬼太郎の友達だろ?」

声の主は“女郎蜘蛛”の妖・・・男心を擽る艶のある美人だ。

「友達も友達!ヤツとは大親友だぜ!
 そもそもアイツの活躍はこのビビビのねずみ男様の助けがあってこそなんだぜ!」

美女を目の前に自然、ねずみ男の鼻息も荒くなる。

「へぇ〜・・・兄さん、凄いんだねぇ・・・
 それじゃぁ・・・鬼太郎の事は何でも知ってるんだろ?
 私にいろいろ教えておくれよ。お礼に奢るからさ」

だが、女の関心は鬼太郎にしかないようだ。

「チェッ!アイツばっかりなんでモテるのかねぇ〜?!止めときな!あいつは猫に御執心だからよ。
 その代りオレ様がいつでも・・・」

ねずみ男の目が厭らしく女を舐める様に眺める・・・
すると、スラリと伸びた女の指がキラリと光り、目が止る。

−−−随分高そうなもんしてやがるな・・・−−−

その妖しく輝く指輪をジッと見つめるねずみ男に

「そう・・・鬼太郎は猫に・・・」

女はひと言呟き、意味深な笑みを浮かべ、ねずみ男の前に幾ばくかの金を置くと、
その場から立ち去って行った・・・




 ねずみ男は隣で必死に指輪を外そうとしているネコ娘の手を掴み、改めて指輪をシゲシゲと見つめ、

−−−あん時のあの女の指輪だ!−−−

「うぎゃぁ――――!!何してんのよ!離しないさいよ!!」

騒ぐネコ娘を尻目に今、思い出した事を鬼太郎に知らせる為、
妖怪アパートを飛び出して行った・・・

「何なのよ!アイ・・・ツ・・・あれ?・・・今の汚いマントの男は誰だっけ?」

ネコ娘の記憶からねずみ男が消えた瞬間だ。

「ネコ娘!しっかりせんか!!」

怒ったような・・・それでいて泣き出しそうな声の砂掛けが、ネコ娘を強く抱き締めた。









 「どうじゃ?鬼太郎・・・何か分かったか?」

ネコ娘が指輪を拾ったという場所に掌を当て、探っていた鬼太郎だが
既に消し去られた後のようで何も伝わってはこず、力無く首を横に振る。

「相手はネコ娘を狙った訳じゃあるまい・・・狙いは鬼太郎。お前じゃろう・・・
 いずれお前の前に姿を現す。それまで待つんじゃ」

「・・・はい・・・そうですね・・・」

それでも地面から掌を離そうとはしない。
そこへ・・・息せき切ってねずみ男が掛け込んで来た。

「分かった!指輪の主が分かったんだよ!!」

その声に鬼太郎は、ねずみ男の襟首を素早く掴むと

「誰だ!早く言え!!」

物凄い形相で詰め寄った。

「ウゲッ!苦し・・・」

「こりゃ!鬼太郎!そんなに締め上げたらねずみ男が死んでしまうぞ!!」

「あっ・・・」

慌てた目玉の親父の声で我に返った鬼太郎は、ねずみ男の襟首から両手を離す。

「ねずみ男。指輪の主が分かったというのは本当の事なんじゃろうな?!!」

「ゲホッ!ゴホッ!ホントもホント!こんな時に嘘なんか吐くかよ!」

ねずみ男は先程思い出した女郎蜘蛛の妖のことを、鬼太郎と目玉の親父に話すが、
『鬼太郎は猫に御執心』の部分はカットされている。
無論、金を貰ったこともだ。

−−−口が裂けったって言えるかよぅ・・・−−−

「父さん。兎に角、女郎蜘蛛の棲家を探し・・・」

何かに気付き鬼太郎が空を見上げると、一羽の鴉が頭上をゆっくりと低く旋回し、
嘴に加えた紙切れを鬼太郎の目の前にポトリと落とす。
紙には

『用があるのは 鬼太郎 お前ひとり』

そう書かれている。
頭上でこちらを見張る様に旋回している鴉を案内役にひとりで来い・・・
そういうことらしい・・・

「ねずみ男!父さんを頼む!」

目玉の親父をねずみ男に託し、鬼太郎は言われるがまま、
何処かへ向かう鴉の後をひとりで追って行った。 




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