繰り人形


いつもの様にフラフラとねずみ男が横丁を歩いていると
突然誰かに襟首を掴まれ、建物の蔭に引き摺りこまれた。

「イテッ・・なにしやがる!!・・・あっ!おま・・・鬼太郎!!」

ねずみ男は一瞬、悪事がバレタか・・・とビクついたが
よく考えてみたらここ最近、鬼太郎にこんな扱いを受けるような悪事は行ってない。

「お前!人を呼ぶのにもうちょっとやり方があんじゃねぇか?!!」

怒るねずみ男だが、鬼太郎は表情ひとつ崩さない。

「ねずみ男、大事な事を忘れてやしないかい?
 そろそろアノ時期だと思うけど・・・」

「アノ時期ィ〜?・・・あっ!!」

鬼太郎の言葉の意味に気付いたねずみ男は大袈裟に嫌な顔をしてみせる。

「げっ!またオレに押し付ける魂胆してやがるな!
 お前!いい加減にしろよ!!」

怒るねずみ男に鬼太郎が喉の奥で笑った。

「お前だって喜んでたじゃないか・・・」

「最初はな・・・でもよぅ・・・」

「シッ・・・」

鬼太郎が何かの気配を察知し、ねずみ男を黙らせた。

「鬼太郎、そんな処で何を・・・あっ!あんたも居たの・・・」

通り掛かったネコ娘が鬼太郎を見つけ嬉しげに声を掛けてきたのだが、
ねずみ男も一緒にいることが分かると少々不機嫌な顔になった。
またねずみ男が鬼太郎を利用しようとしているのでは・・・と、思ったようだ。

「オレ様が居て、大変悪ぅ御座いましたね!!」

そう言いながらも、ネコ娘の出現にねずみ男は逃げ出す絶好のチャンスだと一歩後ろに足を引くが、
いち早くマントの腰の部分を鬼太郎に掴まれ逃げ出すことが出来なかった。

「ネコ娘、飛騨に武術の練習かい?」

「うん。この間、最初よりずっと上達したって黒鴉さんに褒められたのよ!」

そう言って嬉しそうに頬染める彼女の様子に鬼太郎の胸の中がザワつくが、
それを隠すようにいつもの笑顔を浮かべる。

「気をつけて行っておいで・・・」

「うん!・・・ねずみ男!!あんた、鬼太郎を悪事に利用しないでよ!!」

素早く猫化してねずみ男に釘を刺したかと思ったら、今度はとびきりの笑顔を鬼太郎に向け
‘いってきます!!’と手を振り走って行った。
ネコ娘の態度にねずみ男は

−−−ホント、分かり易い奴だぜ・・・−−−

そう思うが、小さくなっていく後ろ姿を見つめる鬼太郎の胸のザワつきは
治まることを知らないように広がっていく。
そんな鬼太郎の気持ちを知ってか知らずか、ねずみ男が面白そうに
余計な事を言い出す。

「あんまり物分かりのいい振りしてるとよぉ、今に黒鴉の奴に
 お前の大事な仔猫ちゃん、掻っ攫われて喰われちゃうんじゃねぇか?」

「・・・ボクがそんなヘマをするとでも?」

そう言う鬼太郎の顔には薄い笑顔が浮かび、妖気が闇の色を帯びている。
ねずみ男は内心焦るが、正面を向いた鬼太郎はいつもの表情をしており
ねずみ男はホッと胸を撫で下ろした。
そんな時、鬼太郎が思い出したように口を開く。

「あぁ・・・そうそう・・・お前が真面目に四十七士探しをしないと
 黒鴉さんが怒っていたよ。ボクからよ〜く言っといてくれってさ」

鬼太郎に睨まれ、ねずみ男は慌てて言い訳をする。

「オレはこう見えても非常に真面目にやってるんだぜぃ!!
 アイツ、ネコ娘にいいとこ見せようと思って、殊更オレのことを悪く言ってやがんだよ。
 黒鴉の野郎〜!!今に見てやがれ!!」

ねずみ男の言葉に鬼太郎が呆れた様に言った。

「そんなに怒っても、お前が彼に敵う訳ないじゃないか」

「腕力じゃぁな・・・でもオレ様と奴とではオツムの出来が違うんだよ!」

そう言うと、腕を組み、ねずみ男は暫し考えを廻らした。
そのうちねずみ男の髭がビビビと揺れる。

「鬼太郎!『アノ時期』のことはオレに任せとけ!
 心配しなくてもちゃぁ〜んと片付けてやるよ!
 ・・・黒鴉の野郎!!首を洗って待ってろってんだ!!」

鬼太郎がねずみ男の考えを聞く暇も無く、ねずみ男はどこかへ素っ飛んで行ってしまった。



次へ→



               閉じてお戻りください