「駄目だ!ネコ、逃げろ!!」

鬼太郎が必死で叫ぶが、ネコは妖怪の足に食らい付いて離れない。
仔猫ながらも鋭い牙を持つネコに噛み付かれ、妖怪の足から緑色の血が滴る。

「小癪な・・・まずはお前から血祭りにあげてやる!!」

妖怪は鬼太郎から片方の蔓を離すと、ネコの身体に巻き付け
地面に何度も叩き付けた。

「ギャウッ!!」

ネコが悲痛な叫びを上げ口から血を吐き動かなくなると、そのまま乱暴に放り投げた。

「ネコ−ーーーーーーーー!!」

「あんなものの心配より自分の心配でもしたらどうだ?」

「・・・お前だけは・・・お前だけは絶対に許さない!!」

先程までの少年の顔は消え、鬼太郎の表情には闇が浮かんでいる。
鬼太郎の身体から電流が妖怪の身体に流れた。

「ウゲッ!!」

感電した妖怪が思わず鬼太郎から蔓を離す。

「簡単に死ねると思うなよ・・・」

鬼太郎が薄く口端を上げ、ちゃんちゃんこを妖怪に投げると
ちゃんちゃんこは妖怪の身体をギリギリと締め上げ、その動きを封じる。
次に鬼太郎は自分の髪の毛を一本抜き、鋭く長い槍に化え、
妖怪の右足を貫いた。

「ギャッ!!」

転げ回る妖怪をせせら笑う様に今度は左足が貫かれる。
バキッバキッ・・・と、嫌な音とともに緑色の血が飛び散った。

「今度は右手がいいかい?それとも・・・ネコをいたぶってくれた左手にしようか?」

例え激痛に耐えかねて妖怪が『殺してくれ!!』と懇願しても
鬼太郎は弄る手を止めはしないだろう・・・

が、その時、槍を構える鬼太郎の足に縋り付く小さく柔らかな感覚に気付き
彼が目を向けると、瀕死の傷を負いながらも彼を止めようと
鬼太郎に必死にしがみ付くネコの姿があった。

「止めろと・・・?キミはそんな酷い目に遭わされても
 それでも弄るのは止めろと言うのか・・・?」

鬼太郎はネコをソッと抱き上げ、ネコには見せないようにすると
妖怪の心臓目掛け槍を放った。

「ギャァーーーーーーーーーッ!!」

断末魔の叫びを上げ、妖怪の身体がザラザラと崩れ消えていった。






ネコの傷は深く、いくら鬼太郎でもどうする事も出来ない。
もう時間の問題だ・・・
恐山病院に・・・しかし、それではいずれ父に知られてしまう。
今、自分が考えている事を父が知れば、絶対に許しはしないだろう・・・

昔・・・
森に咲いた綺麗な花をいつまでも見ていたくて
鬼太郎は毎日その花に生気を与え続けた。
花は秋になり冬になっても咲き続けたが、ある日、それに気付いた目玉の親父が
鬼太郎を諌めた。

『この世にどういう形であれ産まれ出るのも、またそれらがこの世から去っていくのも
 皆、自然の摂理なのじゃよ。
 お前は傲慢にもその理を曲げるつもりか』

鬼太郎に生気を与えられなくなった花は見る見るうちに枯れ
もう二度とその場所に咲くことはなかった・・・

「それでも・・・それでも父さん、ボクにはネコが必要なんです・・・
 一生に一度の我儘、許して下さい」

鬼太郎はネコを助けられる可能性のあるもう一つの場所、
深い森の中にある庵へと急いだ。





誰の侵入をも許さぬように草木が生い茂り、日中でも霧が立ち込める深い森。
ネコの息がだんだんと弱くなるのを感じ、鬼太郎は焦るが
濃い霧と草木がまるで行く手を阻むように邪魔をする。
もうどの位歩いているだろうか・・・
行けども行けども目的の庵は見えてはこない。
何かがおかしい・・・

「つっ・・・」

剣のように尖った枝が鬼太郎の頬に傷を付け、血が滴る。
しかし、この痛みが鬼太郎の頭を冷静にさせた。

先程から自分はずっと同じ場所を巡っているだけのようだ・・・
と、すると・・・この濃い霧も深い草木もひょっとして・・・

−−−迷いの結界・・・−−−

鬼太郎が気付いた途端、侵入を阻んでいた濃い霧も草木も
たちどころに消え去り、彼の目の前に今にも倒れそうな庵が現れた。
庵からは煙が立ち上り、主がいることを知らせている。
鬼太郎は急ぎ、中に入った。


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