「只今帰りました」

そう言って戻って来た鬼太郎の表情を一目見て
目玉の親父は安堵の息を吐いた。

「どうやら落ち着いたようじゃな」

「はい。ご心配をお掛けして・・・すみませんでした」

鬼太郎のちゃんちゃんこから真白な仔猫が顔を覗かせた。

「その猫は?」

「この仔は・・・」

鬼太郎は森での出来事をゆっくりと話し始めた。

ミウの母親を助けられず、鬱々としている自分の前に現れた真白な仔猫。
仔猫の母親は、やせ細り傷だらけの姿で既に冷たくなっていた。
が、その姿からは子供を守るためならば、自分の命を犠牲にすることも厭わない
母の強さと計り知れない愛情の深さを感じた。
ならば、いつまでも悔やみ苦しみ続けることに心を囚われているのは
母の死を無駄にするばかりではなく、母親を悲しませることになると
気付かされたのだ。

話を聞いていた目玉の親父が静かに口を開いた。

「それが母親というものじゃよ・・・」

母という存在を知らずに育った鬼太郎だからこそ、
ミウの母の死と自分の母親を重ねてしまい
余計に心を乱してしまったのだろう。

「それで・・・父さん・・この仔を・・・」

言い出し辛そうにしている鬼太郎に目玉の親父はニッコリと笑い

「お前に母というものを教えてくれた恩ある猫の忘れ形見じゃ。
 大切に育ててやりなさい。」

仔猫を飼うことを許してくれた。

「はい!ありがとうございます!!」

いつも外見に似合わず大人染みた表情しか見せない息子の
久々に見せる子供らしい姿に目玉の親父の顔も綻ぶ。

「今日から家族の一員じゃ。名前を付けねばな。
 真白な毛並みじゃから・・・“雪”でどうじゃ?」

「もう付けました」

「ほう・・・で、なんと?」

「“ネコ”」

「猫−−−?!」

我が息子ながら、なんとセンスの無いネーミングだと目玉の親父は思ったが
仔猫の方は鬼太郎に名前を呼ばれるとちゃんと返事をし、
もう自分の名前は“ネコ”と分かっているようだ。
それから鬼太郎は家にあった箱からピンクのリボンを出し
仔猫の首に結んだ。
この家に新しい首輪など買う余裕など無い。
リボンは前に砂掛けから菓子折りを貰った際に箱に括りつけられていたのを
取って置いたものだ。

「父さん!どうです?」

「おぉ!美人さんじゃな!」

「明日、ネコのお母さんにボクの家族になったことを報告しに行こう」

「ニャァ」

「名前を付けてもらったことも報告するんじゃよ」

「ニャァ」

仔猫の“ネコ”が家族に加わったことで、父と息子だけのこの所帯に
パッと花が咲いたように明るくなったと二人は感じた。
この日から鬼太郎はネコを片時も離さず寝食をともにし
どこに行くにも連れて歩いた。





この日も鬼太郎とネコは森の中の母親の墓に来ていた。
お参りも終わり、そろそろ帰ろうとした時、鬼太郎の妖怪アンテナが
嫌な気配を捉えた。
鬼太郎は小声でネコに

「向こうの茂みに隠れて、絶対に出て来てはいけないよ」

そう言い渡すと、自分は注意深く妖怪の気配を探る。

「そこだ!!」

鬼太郎のリモコン下駄が大きな木の枝に向かい飛ぶが、
妖怪に叩き落されてしまった。

「お前を倒せばぬらりひょん様から褒美が貰えるんだよ!!」

そう叫びながら妖怪は枝から飛び降りると、鬼太郎に向かい
蔓のように伸びた腕を振り上げ攻撃してきた。

「お前はぬらりひょんに利用されてるだけだ!
 目を覚ませ!!」

鬼太郎がいくら説得しても妖怪は聞く耳を持たず
棘の付いた蔓や口から吐き出すドロドロの液体で鬼太郎を攻撃する。
鬼太郎は少しでもネコから離れて戦おうと一瞬目の前の妖怪から
目を離してしまう。

「うっ!!」

妖怪が鬼太郎の身体を蔓でグルグル巻きにし、
棘が容赦無く身体に食い込む。

「俺の口から吐き出される液体は何でも溶かせるんだぜ」

「体内電・・・」

鬼太郎の言葉を遮るように、ネコが茂みから飛び出し
妖怪に食らい付いた。



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