ネコ娘は皆にからかわれながらも、ずっと鬼太郎を探していた。
そのネコ娘の瞳に、ねずみ男の肩に腕を廻す鬼太郎の姿が映った。

−−−相変わらず 仲がいいんだからぁ・・・−−−

ネコ娘の視線にすぐに鬼太郎も気付いたようで
いつもの笑顔を向けてくれた。
鬼太郎が自分に気付き、笑いかけてくれたことが嬉しくて
ネコ娘もとびきりの笑顔を返した。
次に隣のねずみ男に目を向けると
何故か彼は固まっている。

−−−私が口を滑らせないか 心配してるのかなぁ?−−−

ネコ娘はねずみ男を安心させようと、彼にも笑いかける。
が、その途端、ねずみ男の表情が引き攣り
気不味いように顔を逸らせた。

−−−何よ!あいつ!感じ悪〜い!!−−−

瞳が縦に伸びるが、隣に座る砂掛けに酒を勧められると
そのままネコ娘の意識はまた、女達の話の中に戻っていった。





ネコ娘がねずみ男に笑いかけることなど
滅多にあることでは無い。
いや・・・滅多にどころか、余程の理由が無い限り
有り得ることではないのだ。
それにネコ娘の口紅騒ぎからこちら、ずっとねずみ男は
挙動不審だ。
どんな経緯かはわからない・・・だが、彼女に口紅をあげたのはねずみ男だと
鬼太郎は確信した。
鬼太郎の妖気が一気に冷たくドス黒いモノになっていく。

「ネコ娘がお前に笑いかけるなんて・・・
 ボクが知らない間に、随分仲良くなったんだねぇ・・・」

静かな口調に口元には笑みまで湛えている・・・が、
その隻眼は鋭くねずみ男の横顔に突き刺さる。

「べ・・・別に仲良くなんかねぇよ・・・
 それに・・・あれは・・・単にあの猫女の機嫌が・・・
 そう!あの猫女の機嫌が良かっただけじゃねぇか?」

「へぇ〜・・・機嫌が良かった・・・何故だろうねぇ・・・」

「そ・・・そんなことオレが知るかよ・・・」

「ネコ娘の機嫌がいいのは・・・誰かから口紅を貰ったからかなぁ?
 ねぇ?ねずみ男・・・」

肩を掴む鬼太郎の手に力が籠る。

−−−こ・・・こいつ・・・知ってやがる!!−−−

ねずみ男の全身からドッと汗が噴き出す。

「これは・・・ボクからの忠告だけど・・・
 ボクのモノを奪うつもりなら
 お前もそれなりの覚悟が必要だよ」

ねずみ男は“とんでもない!!”と言うように
首を何度も横に振った。

「鬼太ちゃんだって知ってるじゃねぇか!
 オレとあの猫女、顔を会わせれば喧嘩になるってよぅ!」

その言葉に鬼太郎の表情がピクリと動いた。

そうだ・・・いつだって二人は顔を会わせれば喧嘩になる。
いや・・・顔を会わせなくても、ネコ娘はこの男の気配を感じただけで
頭の中もその瞳も男の姿を見つけることだけに夢中になる。
今までも度々、口喧嘩からネコ娘がねずみ男を追いかけて行ってしまい
後にポツンと鬼太郎ひとりが残されることがあった。
猫と鼠・・・喰うモノと喰われるモノ・・・
それは仕方が無いことだと思いながらも
鬼太郎の胸の中に焼け付き、引き千切られるような痛みが走る。
今までずっとその痛みに気付かぬ振りをしてやり過ごしてきたが・・・

−−−もう駄目だ!!−−−

鬼太郎はねずみ男の首を掴むと
そのまま真暗闇の森の奥へと消えて行った。


 
 
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