宴はたけなわ、皆、酔いに任せて思い思いに楽しんでいる。
と、その時、爆音とともに森の奥が一瞬だが眩しいほどに光った。
何事かと静まり返った皆だが、

「雷とは我等の宴に相応しい!!」

そう誰かが叫んだのを切欠に
また元の大騒ぎに戻って行った。

しかし、目玉の親父とネコ娘の二人だけは
先程の爆音と光の正体に気付いていた。
酔ってヨロけながらも森へ行こうとする目玉の親父に

「親父さん、私が見てくるから心配しないで!」

そう耳打ちすると暗い森へと急ぎ向かった。


ネコ娘が真っ暗な森の中へ足を踏み入れると
奥から鬼太郎がこちらへ向かって来る姿が見えた。

「鬼太郎!」

「やぁ!ネコ娘!!」

「『やぁ!ネコ娘』じゃないわよ!さっきのは何?」

「あぁ・・・他人のモノを盗もうとする性悪妖怪がいたんで
 ちょっと懲らしめてやっただけだよ・・・」

ネコ娘が目を凝らし森の奥を見ると木々が邪魔してよくは見えないが
確かに何かがプスプスと焦げて煙を上げている。

「イヤね。折角のお花見なのに・・・
 どんな顔をしてるか見てやるわ!!」

奥へ行こうとするネコ娘の腕を鬼太郎は掴み

「ただの・・・小悪党だよ・・・」

一言だけ呟いた。

「小悪党?・・・まるでねずみ男みたい!!」

そう言って笑うネコ娘に、鬼太郎は感情の無い声色で言った。

「そうだよ・・・あれはねずみ男さ・・・」

ネコ娘の表情が一瞬凍りつく。
が、クスクス笑う鬼太郎にからかわれたのだと気付き
猫化して怒った。

「もう!意地悪!!
 鬼太郎が友達のアイツにあんな事する訳ないじゃないよぅ!!」

ネコ娘は認めたくはないが、ねずみ男の裏切りに
いつも“しょうがない” “友達なんだ”と許してきた鬼太郎だ。
あの遠くでプスプスと焦げているのが、ねずみ男の筈がない・・・

ネコ娘の言葉に森の奥を見つめ、鬼太郎がポツリと呟く。

「友達・・だから・・・」

そう・・・これからもずっと友達だからアイツに警告したのだ。
もうこれ以上、この焼き付き引き千切られる様な痛みを
素知らぬ振りでやり過ごすことなど出来ないのだと・・・
それでも・・・それでもまだ、ボクに痛みを与えるというのなら
その時は・・・

鬼太郎の闇の妖気に反応して
森の木々がざわめいた。

「き・・・鬼太郎?」

少し怯えた声で自分の名を呼ぶネコ娘に、鬼太郎はいつもの笑顔を
作って見せ、彼女の唇を指でなぞる。

「口紅・・・似合ってるよ。
 ねずみ男から・・・だよね?」

「アイツ!!私には口止めしたくせにぃ!!」

鬼太郎に口紅を褒められて嬉しい反面、それ以上に照れくさくて
ネコ娘は頬を染め殊更の様に怒って見せた。
鬼太郎はそんな彼女の様子に笑みを零す。

「宴は朝まで続きそうだよ。
 それに・・・口紅の話も聞きたいし・・・」

彼の言葉に隠された意味に気付き、耳まで真っ赤になったネコ娘の手を取り、
二人はゲゲゲハウスへと消えて行った・・・





森の奥、ねずみ男が息を殺して鬼太郎とネコ娘のやり取りの
一部始終を聞いていた。
プスプスと焦げて煙を上げていたのは、実は・・・
ねずみ男のすぐ横に転がっていた朽ちた丸太だった。

鬼太郎からの警告・・・と言うより脅しだ。
必要以上にネコ娘に近づけば、次はお前がこうなるのだと・・・

当然ながらねずみ男は納得がいかない。
今回、悪いことなど何一つしてはいない。
自分はしょ気ているネコ娘を慰めてやっただけだ。
褒められこそすれ、脅される謂れ等全くないではないか・・・

しかし・・・
普段は正義の味方、ゲゲゲの鬼太郎だが、
こと、あの猫女が絡むと話は別になる。
理屈や理性、正義までもかなぐり捨てて
文字通り【鬼】になるのだ。
そのことを一番良く分かっていたのも自分だ・・・

教訓・・・
「触らぬネコ(女)に(鬼の)祟りなし」

ねずみ男の口から深い溜息が洩れた・・・



         終




                  閉じてお戻りください