同類

 −−−まただ・・・また今日も・・・−−−

このところネコ娘は何者かのねっとりと絡み付くような嫌な視線を感じていた。
それは人間界で働いている間が主だったが
最近では帰り道にも感じるようになっていた。
それに時には自分を盗撮していると思われる微かなシャッター音が聞こえたり、
『猫田さんは僕の恋人』・・・などと書かれた意味不明な手紙が
ネコ娘のロッカー室に入っていることもある。

 −−−だんだんとエスカレートしている・・・?−−−

そう思うと気持ち悪さで鳥肌が立つ。

 −−−やっぱり鬼太郎に相談しようかな・・・−−−

しかし今のところ何かされたわけでもないし
自分のことで彼に迷惑もかけたくない。

 −−−今度嫌な視線を送ってきたら
        とっ捕まえてやるんだから!!−−−

自分で自分を奮い立たせるようにネコ娘は心の中で呟いた。
そんなネコ娘の様子にロクロが心配顔で声をかけてきた。

「ネコちゃん、鬼太郎に相談しましょ」

ネコ娘とは人間界で一緒にアルバイトをすることが多いロクロは
当然、ネコ娘を付け狙う何者かの視線に気づいていたのだ。

「ロクちゃん、ありがとう。でも、私なら大丈夫よ。
 気配で人間の男だって判ってるんだし
 そのうち捕まえて引っ掻いてやるんだから!」

 −−−だから鬼太郎には言わないで −−−

そう言うように笑顔で自分の唇に人差し指をあてた。

好きな鬼太郎に負担をかけたくないと遠慮してしまうネコ娘の健気な気持ちに
ロクロは涙が出そうになった。

「そうだわ!それじゃぁ当分一緒に帰りましょうよ!
 二人なら相手も手出し出来やしないわ」

ロクロの提案にネコ娘は静かに首を振り

「だめよぅ。ロクちゃんは鷲尾さんとデートがあるでしょ。
 私なら本当に大丈夫だから、デート楽しんで来てね!」

笑顔で言うと −−−お先に!−−−と手を振り
ロッカー室を出て行った。



外はもうすっかり暮れてはいたが、街中は賑やかでネコ娘はひとりでも
心細くはなかった。
それに今はあの視線を感じない。

 −−−−−ほらっ、やっぱり何でもなかった
        私の気にし過ぎだったのよ −−−−−

もうすぐ、あの角を曲がれば妖怪横丁へ帰れる。
流石にここまで来ると人の姿はないが
もう安心・・・
ネコ娘が安堵の息をついた時だった。
背後に人の気配を感じ振り向こうとした瞬間、口を濡れた布のようなもので
塞がれてしまった。
鼻をつく薬品の臭いと薄れる意識の中、
ネコ娘の身体はその場に崩れ落ちていった・・・







その頃、ロクロは鷲尾さんにネコ娘のことを相談していた。
ネコ娘には大丈夫と言われたが、嫌な予感が消せないでいたのだ。
ロクロの話を静かに聞いていた鷲尾さんが口を開く。

「それってストーカーじゃないかな?
 だとしたら危ないよ」

ロクロはネコ娘ほど人間界に詳しくはない。
‘ストーカー’という言葉は聞いたことがあっても
それがどういうものなのか判らない。
鷲尾さんはそんなロクロに、新聞やテレビなどで知り得た情報を話してくれた。
話の内容を聞けば聞くほどネコ娘の状況に当て嵌まる気がして
もう居ても立ってもいられなくなった。
すぐにネコ娘を説き伏せて、鬼太郎に相談しなくてはいけない。
ロクロは自分も一緒に行くという鷲尾さんを残し
妖怪横丁へと急いだ。



横丁へ着くと、砂掛けが声をかけてきた。

「ロクロ!ネコ娘を知らんか?
 夕飯を一緒にとる約束をしておったんじゃがどこにもおらし、
 携帯も繋がらんのじゃよ。」

ロクロの顔が青褪め

「ネコちゃんが危ない!!」

そう叫ぶと砂掛けの手を掴み無我夢中で鬼太郎の元へと走った。






卓袱台の向こう、鬼太郎は黙ったまま腕組みをして座っている。
その隻眼は閉じられ、何を考えているのか判らない。
そんな鬼太郎の様子に焦れた砂掛けが怒鳴った。

「鬼太郎!ロクロの話をちゃんと聞いておったのか?
 ネコ娘の身が危ういんじゃ!何故動かぬ?
 何故黙ったままなんじゃ!!」

「ネコちゃんは鬼太郎に迷惑かけたくないから
 ひとりでずっと我慢して・・・」

とうとうロクロは泣き出してしまった。

そこへ偶然居合わせたねずみ男が二人を諌めるように口を挟む。

「まぁまぁ御二人さん、考えても見ろよ。
 あの猫女のことだ、そうそう人間の男なんぞにやられるこたぁねぇや。
 オレは反対にその男の身が心配・・・」

自分を睨む隻眼に気づき
ピタリと口を噤んでしまった。

と、その時、外で化け烏が一声大きく鳴くのが耳に響いた。
それを待っていたかのように鬼太郎は立ち上がり
目玉の親父に向かい声をかける。

「父さん、行って来ます」

「うむ・・・ほどほどにな・・・」

訳が分からず砂掛けとロクロは顔を見合わせるが
ねずみ男は肩を竦め

「それじゃ済まねぇな、ありゃ・・・」

小さくポツリと呟いた。




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