雨のち晴れ


 朝から降り続いている雨が時折ガラス窓を叩く・・・

人間界のカフェで働くネコ娘はいつになく元気がない。
と言うのも、鬼界ヶ島からミウとカイが鬼太郎の元に遊びに来たからだ。
弟のカイは東京での買い物が目的だったが、その姉のミウは・・・

−−−想いを伝えて・・・そして・・・鬼太郎の気持ちを聞くため・・・だよね・・・?−−−

『幽霊族とアマミ―一族は親戚のようなもの』
目玉の親父が言ったこの何気無いひと言が、鋭い棘となってネコ娘の胸にずっと突き刺さっている。

由緒正しい幽霊族の血を守るためには、ミウを娶るのが一番いいことだと
あの親子は考えているに違いない。
どんなに足掻いても猫妖怪の自分なんぞは最初から問題外なのだろう。
それに・・・

−−−美人で気立てもいいミウちゃんを鬼太郎だって・・・−−−

そろそろ潮時なのかも知れない・・・
いつまでも問題外の猫妖怪が傍でウロチョロしてるのはミウちゃんだっていい気持ちはしないだろうし、
鬼太郎だって迷惑に感じるに違いない・・・
それでも決して彼はそのことを口にも態度にも出さないだろう・・・
ならば自分から身を引くのが彼にしてあげられる唯一のことなのではないか・・・

−−−鬼太郎がいなくたって私は生きていける・・・よ・・・−−−

だが、そう思うだけで鋭利な刃物で切り刻まれているかのように胸が痛む・・・
痛くて痛くて・・・息が出来ないほど苦しい・・・

−−−ダメ!ネコ娘、しっかりしなさい!!今は仕事でしょ!−−−

心の中で自分自身を叱責すると、いつもとは違うぎこちない笑顔で
仕事へと戻っていった・・・



カラン カラン・・・店のドアが開く・・・

「いらっしゃいませ〜!」

メニューを手に振り返るネコ娘の瞳に、鬼太郎とミウの姿が飛び込んできた。

「!!」

「ネコ娘もミウちゃんに会いたいだろうと思ってね」

「こんにちは。ネコ娘さん」

眩しい二人の笑顔がまたネコ娘の胸を掻き毟り傷付ける・・・

「いらっしゃい。ミウちゃん・・・折角遊びに来たのに生憎の雨で残念だね」

必死でネコ娘は笑顔を作った・・・が、やはり引き攣ってしまうのが自分でも分かり
顔を俯かせてしまう。

「ネコ娘、もうすぐ仕事終わるんだろ?一緒に・・・」

そう言う鬼太郎に

「ヤダ〜鬼太郎!折角のデートに私が入ったらお邪魔虫じゃないよぅ」

「えっ?デートって・・・?」

意味が分からないような顔をして聞き返す鬼太郎にそれでも精一杯の笑顔で

「照れない!照れない!はい!メニュー・・・注文が決まったら呼んでね」

サッサと二人の席を離れて行ってしまった。

「ネコ娘さん・・・デートだなんて・・・」

火照った頬を両手で覆うミウがフッと鬼太郎を見ると珍しくムッとした表情を浮かべている。

−−−・・・鬼太郎さん・・・?−−−

ネコ娘が予感していた通り、ミウは鬼太郎に告白する為に来ていた。
しかし、二人っきりになりミウが切り出そうとすると
その度に鬼太郎が違う話題を持ち出すので、ずっと言いそびれているのだ。
それでも、今回を逃したら今度はいつ東京に来られるか分からない。
ミウは思い切って口を開いた・・・

「鬼太郎さん。私・・・鬼太郎さんに・・・」

その時、隣のテーブルに座っていた男がネコ娘に親しげに話し掛ける声がこちらにまで届き
鬼太郎の表情が微かにピクリと動く。
最初は他愛もない常連客とのやりとりだったのだが、だんだんと男の口数が少なくなり
そして・・・

「お・・・俺さ・・・猫さんにずっと憧れてて・・・今、付き合ってる男性とかいるのかな?」

突然ネコ娘に告白をしてきた。
ネコ娘は驚き頬を朱に染めながらも

「また またぁ〜・・・からかわないで下さいよぅ」

笑顔でそう答えるが、男はなおも食い下がった。

「からかうなんて、そんな!本当に本気なんだ!
 猫さんがフリーなら考えてみてくれない?俺と付き合うこと・・・」

男の表情でネコ娘にも嘘や冗談でないことは分かる。
ならばこちらもちゃんと誠意を持って、断らなければならない。
もうずっと心に想う男性がいる・・・と・・・
今、それを口に出すのは身を切られる様に辛いのだが、それが自分の真実の気持ちなのだ。

「あの・・・私・・・好きな・・・」

ネコ娘がそこまで言った時だった・・・

シュッ――――――――

細い槍のようなモノが男とネコ娘の間を割って飛び、背後の壁に突き刺さった。

−−−鬼太郎・・・?!!−−−

咄嗟に彼に目を向けるが、彼はこちらに背を向け座っているので
その表情は分からない。
だが、確かにこの細い槍・・・元は鬼太郎の髪の毛だ・・・

ネコ娘は素早く壁に刺さった槍を抜き取ると目を白黒させ固まったままの男に

「お気持ちは嬉しいんですけど・・・ごめんなさい!!」

ぺこりと頭を下げ、逃げる様に男の席を離れた。




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