夢か現か・・・

「さよなら・・・鬼太郎」
彼女はアーモンド型の大きな瞳を真っすぐに向け
小さいけれどハッキリとした声でそう言った。

彼女の隣にはボクの知らない男が
彼女の肩をしっかりと抱いている。

昨日までボクに向けられていた少しはにかんだ笑顔はその男に向けられ
ボクの存在すら忘れ去ってしまったようだ。

彼女の瞳にはもう男の姿しか映っていない

ボクの中の何かが音をたてて崩れていく・・・
絶望が闇を呼び、闇がボクの中の鬼を目覚めさせる

次の瞬間
鈍い音をさせ、ボクの指が男の喉を切り裂いた。
飛び散る鮮血は、まるで噎せ返る香りを放つ真朱の花弁
それを全身に浴びながら、息絶える男の姿を見下ろした。

「少しは抵抗してくれなきゃ
     つまらないじゃないか」

一瞬で終わってしまったことに物足りなさを感じたが
男の今はもう物言わぬ躯を片足で転がすと
ゾクゾクする程の快感がボクの身体を駆け巡る。

地面に座り込み動くことも出来ずにいる彼女に見せつけるように
鮮血が滴る自分の右手をペロリと舐め上げると
彼女は小さな声で悲鳴を上げた。

少し乱れた髪に涙で潤んだ瞳
震える薄紅色の唇と苦しげに上下する胸は
それが恐怖心からだと分かっていても
男との行為を想わせ、ボクの闇を一層深く濃いものにしていく。

彼女の顎を朱に染まった指で掴みこちらを向かせると
今はもうその瞳に映るのはボクだけだ。

込み上げる笑いを飲み込み、ボクはいつもの笑顔をつくると
彼女の少し尖った耳に優しく囁いた。

「忘れちゃったのかい?
 君はボクだけのものだろう?・・・・・ねぇ?ネコ娘」





*********


「!!」

飛び起きて辺りを見回すが
そこはいつものゲゲゲハウスの自分の寝床だ
大きく安堵の息をつくが、まだ心臓の鼓動は速く
額にも首にも冷たい汗が幾筋も伝い落ちる
その汗を無造作に手で拭いハッとする
慌てて己の手を見るが、そこには汗でぬるついた手があるだけだ

 −−−−−あれは夢・・・ただの夢だ・・・−−−−−

そう自分に言い聞かせるが本当にそうだろうか?
もし・・・もしも・・・彼女がボク以外の男を選んだとしたら
その時ボクは・・・きっと・・・

心の中の闇が、また少し大きくなるのを
ボクは感じていた・・・




               



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