黒煙が消え辺りを見回すと、そこは薄暗い洞窟のような場所だった。
小さな朽ち掛けた祠の中とは思えぬほど広い。
それもその筈、ここは何者かが創り出した異次元の空間なのだ。

「ネコ娘・・・怪我は?」

庇うようにしっかりと抱いたネコ娘の身を心配しながらも
用心深く気配を探る。

「ううん。私は大丈夫・・・うにゃ!!」

大きく肌蹴た胸の部分に気が付き、ネコ娘は慌てて身繕いを整えた。
祠の前でのコトを思い出すと恥かしくて逃げ出したい気持ちでいっぱいになるが、
今は一刻も早く連れ去られた人間達を探し出し、救い出すことが最優先だ。

「・・・人間の声らしきものは何も聞こえないけど・・・」

少し尖った耳を欹てるが、物音ひとつ聞こえてはこない。

突然、鬼太郎の妖怪アンテナが大きく反応し、

《お前たち・・・人間ではないな!!》

響くような声と共に、ボロ布を纏った異形のモノが二人の前に現れた。
頭には禍々しく捻じれた角があり、背は曲がり、手の指は3本しかない。
そのどれもが鋭く黒く光る長い爪を蓄えている。

「お前は誰だ!!連れ去った人間はどこにいるんだ!!」

《どうやらお前たちは闇の生き物らしい・・・ここはお前たち不浄のモノが来る処ではない》

この男の言葉に勝気なネコ娘が言い返す。

「闇の生き物とか不浄とか、人間を浚ったアンタはどうなのよ!!」

《浚ったのではない。あの人間どもは新しい世を創る為に必要な礎・・・選ばれし者なのだ》

「新しい世を創る・・・?アンタ何様のつもり?!!」

《私は神・・・今の世を壊し、私を崇拝する者達だけの私の世を創るのだ》

男女を浚ったのは、云わばアダムとイヴということなのだろう・・・

「お前が・・・神・・・?」

しかし、目の前の男は神などという尊い存在とは程遠いドロドロとした嫌な気を纏っている。
フッと鬼太郎の脳裏に昔、目玉の親父から聞いた話が蘇った。

−−−お前は・・・成れの果て・・・か−−−

人間に忘れ去られ手を合わせる者のなくなった神と呼ばれる存在は、
自然の中へと溶け込むのだが、中にはそれを良しとせず、
守ってやった恩を忘れた人間を怒り恨んで自ら邪神へと堕ちていくモノもいる。
そんなモノを目玉の親父は『成れの果て』と呼んでいた。
そして・・・『堕ちていくモノも心の中では苦しんでおるのじゃよ』とも・・・

鬼太郎はネコ娘に下がる様に合図を送ると

「お前の苦しみ・・・ボクが終わらせる!!」

髪を鋭い剣に変え、成れの果てに斬りかかる・・・が、成れの果ては一瞬にして消えたかと思うと、
今度は鬼太郎の背後に現れ、熊のように鋭い爪をひと掻きし、その背に傷を負わせた。

「・・・っ・・・」

「鬼太郎!!」

ネコ娘が俊敏な動きで躍り掛かるが、簡単に払い除けられ
岩にたたき付けられてしまう。

《神の私に挑もうなど・・・愚かな・・・》

片手が鬼太郎の喉に伸び、ギリギリと首を締め付ける。

「体内電気―――――――!!」

しかし、また成れの果ては消え・・・そして、現れる。
髪の毛針にリモコン下駄、それにちゃんちゃんこでさえ、成れの果ての身体を通り過ぎてしまう。

打つ手が無い・・・まるで幻に踊らされているようで、何の攻撃も奴には効かない・・・

《どうやらここまでのようだな・・・闇のモノは闇に消え去るがいい》

成れの果ての口から伸びた黒煙が大蛇のように鬼太郎の身体に巻き付き、
物凄い力で締め上げた。

「鬼太郎!!」

ネコ娘が黒煙に飛び付き爪や牙で攻撃するが、やはりまるで手応えが無く
反対に伸びて来た長い尾に弾き飛ばされてしまう。

「うにゃっ!」

ネコ娘の身体は成れの果ての背後を飛び越え、台座に置かれた丸い大きな鏡に激突すると、
そのまま大鏡もろとも地面に叩きつけられた。
すると・・・

《ゲッ!!》

成れの果てが短い悲鳴を上げ顔を歪ませ苦しみ出し、鬼太郎を締め上げていた黒煙が緩んだ。

−−−そうか・・・お前は幻・・・−−−

「本体はそこだ!!」

鬼太郎のリモコン下駄が大鏡目掛け宙を飛び、その中ほどに命中し突き抜ける。

《うぎゃぁぁぁぁぁ・・・》

大きな悲鳴が上がり大鏡とともに成れの果ての身体も粉々に砕け散っていく・・・

−−−もう苦しむことは無い・・・静かに眠れ・・・−−−

倒れたままのネコ娘に駆け寄り胸に抱くと、彼女も程無くして目を覚ました。

「鬼太郎・・・アイツは?」

「消えたよ・・・ネコ娘のお陰だよ・・・」

「私は何も・・・あっ!鬼太郎!あっちから人間の声が聞こえる!」

成れの果てに掛けられていた術が解け、助けを求める声を上げている。

鬼太郎とネコ娘は急ぎ駆け付け、制服姿の男女6人を見つけた。

「もう大丈夫よ!早く逃げましょう!!」

とは言ったものの、主が消え去った今、元の世界に戻る出口を探すのは
砂漠で小石を探すより困難かも知れない。
それに、もともとは成れの果てによって創り出された空間・・・そう長くはもたないだろう・・・

−−−このままでは全員飲み込まれる・・・−−−



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