洞窟の中はクネクネと曲がりくねり、途中分かれ道がいくつもあるが
所々に置かれている篝火が歩を進める毎にポツンポツン・・・と点き、
二人を誘導してくれる為、迷わずに済む。
ねずみ男はその篝火を横目で見ながら内心焦った。

−−−どうやら目覚めちまったらしいや・・・こりゃ早く片付けねぇと
    ホントにヤベェことになっちまうぜ・・・−−−

洞窟に侵入した二人の気配で小波が目覚め、その証として篝火が点いて行くらしい。
慣れた足取りで前を歩くねずみ男の少し後ろを、黒鴉は用心深くついて行く。

そのねずみ男は鬼太郎に『アノ時期』だと告げられるまで、ずっと小波の封印のことなど忘れていたが、
こうして洞窟の中を歩いていると一年前の小波との会話をありありと思い出す。
ネコ娘が女妖怪・小波に狙われる原因を作ったのは、何を隠そう、このねずみ男なのだ。


一年前のあの日・・・
封印の儀式に現れたねずみ男の顔を見るなり、禿に身の回りの世話をさせていた小波は
大袈裟に落胆の表情を浮かべ溜息雑じりに吐き捨てた。

「またねずみでありんすか・・・わっちは主様に諭されたからこそ
 封印されることに同意しましたのえ・・・儀式をするのがねずみだと分かっていたら
 わっちは同意などしなかったでありんす!!」

この小波の言葉にカチンときたねずみ男がウッカリ口を滑らす。

「あぁ あぁ!オレ様で悪ぅございました!!
 お前は知らないだろうけどよぅ、お前が焦がれてる主様はネコ娘以外眼中に無いの!
 アイツを待ってても無駄つ〜・・・あっ!!」

ねずみ男は両手で口を塞ぐがもう遅い。

「ネコ娘?・・・わっちの主様を誑かすとはどんな女でありんすか!」

激怒する小波をねずみ男は必死で宥める。

「いや・・・小波ちゃん・・・別にアイツは誑かされてる訳じゃないのよ。
 どっちかっつ〜と、奴が誑かしてるつ〜か・・・」

「どちらにしてもわっちには同じことでありんす!
 その女をこの手で八つ裂きにするまで封印など・・・!!」

小波の言葉にねずみ男の全身から一気に血の気が引いた。
決してネコ娘の身を案じてでは無い。
ネコ娘の傍には奴がいるのだ。
そう易々と八つ裂きになど出来る訳がない。
が、問題はその後だ・・・
自分が口を滑らせたが為に小波を封印出来なかったばかりか
ネコ娘の身を危険に晒したとあの鬼に知られたら、
どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない・・・

立ち上がり出口に向かおうとする小波の腰に慌てて抱き付き押し倒すと

「封印させていただきや〜す!!」

一言叫び、封印の儀式を強引に始めたのだった・・・




その『ネコ娘を狙っている女妖怪』小波が一年ぶりに今、目覚めた。
もう黒鴉を誘い出す為だけの方便では済まない。
グズグズしていると小波が洞窟を這い出て、ネコ娘の元に向かってしまう・・・
そしてその結果、八つ裂きにされるのはねずみ男なのだ。

−−−ったく・・・冗談じゃねぇぜ!いつもいつも面倒事をオレに押しつけやがるくせに
    失敗するとあのガキャ容赦がねぇんだからよぅ・・・−−−

自分のことは棚に上げ、ねずみ男は心の中で毒づいた。

「ねずみ男!・・・ねずみ男!!」

黒鴉の呼び掛けにねずみ男が我に返ると目の前に朱塗りの扉が見えてきた。

「おっ!着いたようだぜ・・・」

二人が朱塗りの扉の前に立つと、観音開きの扉が内に開き
禿が恭しくお辞儀をする。
ねずみ男がその後方に目を向けると、花魁姿の小波が煙管を手に
こちらを振り向いた。

「やはり今年もねずみかえ・・・もしかしたら主様が・・・そう思えばこそ
 すぐにここを出ずにこうして待っておりんしたが・・・」

小波が禿に手を借り、立ち上がる。

「ちょ・・・ちょっと小波ちゃん、どこに行くっつ〜のよ!!」

「決まってるでありんす!主様を誑かす女を八つ裂きにしに行くのえ!!」

「ちょっとタンマ!!儀式をするのはオレじゃないのよ!!
 ほらっ!今年はこちらの御仁が・・・」

そう言ってねずみ男が後ろにいる黒鴉を前に押し出した。

「鴉天狗かえ?・・・ふ〜ん・・・主様程ではないが、なかなかの妖力の持ち主でありんすなぁ。
 それに男振りも・・・わっちの好みでありんす・・・」

「そりゃぁ〜良かった!!なっ!黒ちゃん!!」

そう言ってねずみ男は黒鴉の背中をバンバン叩くが、黒鴉にひと睨みされ
部屋の隅に引っ張っていかれた。

「さっきから『主様』とか『女を八つ裂きに』とか私には意味が分からないことばかりだ。
 ちゃんと分かる様に説明したらどうだ?!」

それでなくとも『行きゃ〜わかる』の一点張りで、ネコ娘が狙われる訳や
小波の封印の方法など黒鴉は教えられずにきたのだ。

「私が納得出来ないうちは封印の儀式など・・・」

「あれっ?黒ちゃん、そんなこと言っちゃっていいの?
 黒ちゃんが封印の儀式をしないとなると、あの小波はここから這い出て
 男という男を全部喰らい尽くすことになるぜ」

「その時は・・・私が身体を張ってでも止めてみせる!」

「よ〜く考えてみろよ!ここはあの女の塒の中・・・こっちに勝ち目は無いわけ。
 それよりもよぅ、ちょちょっと儀式をすれば全て丸く治まるわけよ」

「・・・」

黒鴉はもちろん納得は出来ないが、ねずみ男の言うことにも一理あるような気が
だんだんとしてくる。
その微妙な心理を見逃すねずみ男ではない。

「じゃぁ、イッチョ頼むわ!・・・と、その前に・・・
 オレはちょっと小波ちゃんと話してくるからよ」

ねずみ男は小波の傍に行き何やらコソコソと耳打ちをすると、また黒鴉の元に急いで戻って来た。

「後の段取りは小波ちゃんに任せておけば、な〜んも心配はいらないからよ!!」

そう言うと、ねずみ男は部屋をひとり出て行った。


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