君は・・・

何時ものようにねずみ男は鬼太郎を裏切り
何時ものように鬼太郎はこの腐れ縁の男を裏で操る妖怪を倒す
すると、これまた何時ものようにねずみ男は鬼太郎にすり寄り
何時ものように鬼太郎は許すのだ。


「鬼太郎のお人好し!
 ど〜して許しちゃうのよぅ!!」

ネコ娘はプリプリ怒りながら鬼太郎に言った。
鬼太郎はそんなネコ娘にいつもの笑顔を向けたが
彼女の気は済まないようだ。

「鬼太郎とアイツが友達なんて信じられない!!」

悪友の尻拭いを‘しょうがない‘と引き受ける鬼太郎。
そんな鬼太郎をいつも見ているネコ娘は心配なのだ。
悪友・腐れ縁と言いながらも、長い付き合いのねずみ男の裏切りに
内心鬼太郎は深く傷ついているのではないかと思っていた。

しかし鬼太郎はネコ娘の心配を知ってか知らずか
ただ黙って笑っているだけだ。
ネコ娘の薄紅色の唇からひとつ溜息が洩れた。

そう・・・分かっていたことではないか
鬼太郎は来るもの拒まず
去る者追わず・・・なのだ。
例えそれがこの少年を世界中の誰よりも恋い慕う自分でも
彼にとっては同じこと・・・
いや・・・自分はその気持ちにさえ気付いて貰えない程の
存在なのだ。

大きなアーモンド型の瞳が潤み、今にも涙が零れそうになったが
それを隠すように鬼太郎に背を向けた。

「アルバイトの時間だから・・・もう行くね」

そう言うと、そのまま走って行ってしまった。
ひとり残された鬼太郎は、ネコ娘の走り去る後ろ姿を見つめ
ポツリと呟く。

ーーー本当のことを言っても
 きっと君は信じないだろう?
 アイツといると楽なんだ・・・って・・・ーーー


鬼太郎の中にある大きな闇
その闇に住まうもう一人の鬼太郎・・・
それを知っているのは父親である目玉の親父とねずみ男だけだろう。
しかし、目玉だけの姿になりながらも鬼太郎を守り育ててくれた父親には
もう一人の鬼太郎・・・鬼と化した自分を見せたくはない。
だから父にはその望み通り、親孝行の息子で居続けるつもりだ。
だが、ねずみ男には、ねずみ男だけには演じることも隠すこともせず
ありのままの自分で居られるのだ。

敵の返り血を全身に浴び、薄ら笑いを浮かべる鬼太郎を見ても
アイツなら平然と言うだろう。

『お前はそういう奴だよ』

狂気に満ちた隻眼をギラつかせ
相手を弄び苦しむだけ苦しめた挙句
命を奪うことを楽しむ鬼太郎もまた鬼太郎自身なのだと
ねずみ男は受け入れてくれるのだ。


−−−ねぇ、ネコ娘・・・君ならどうする?−−−

それでも鬼太郎は鬼太郎なのだと
受け入れてくれるのだろうか?
それとも、そんな自分を恐れ、失望し、軽蔑するのだろうか?

どちらにしても・・・と、鬼太郎が薄い笑いを浮かべる。

−−−決して逃がしはしないけどね・・・−−−



           終


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