「鬼太郎!」
−−−ネコ・・娘・・?−−−
「鬼太郎!起きて!!」
−−−う〜ん・・・もう少し・・・−−−
「親父さん、もうとっくに大学に行ったわよ!」
−−−ふ〜ん・・えっ?大学?−−−
驚いて飛び起きると、そこはいつものゲゲゲハウスではなく
人間が住むような普通の家の一室だった。
「ここは?・・・それに父さんが大学って一体・・・?」
怪訝な面持で訊ねる鬼太郎に
「イヤ〜ね!まだ寝惚けてるの?」
ネコ娘がクスクスと笑う。
「ここは親父さんと鬼太郎の家でしょ!
それに、親父さんはもう何年も大学に妖怪学を教えに行ってるじゃない!」
今更何を言ってるんだという様に呆れた顔をネコ娘はするが
鬼太郎には全く覚えがない。
昨日までは確かにいつもの自分がよく知る日常の中にいた筈なのに・・・
いや・・・つい今まで誰かと戦っていた・・・?
薄っすらだがそんな気もするが、何故か記憶が曖昧で
はっきりとしない。
「鬼太郎?具合でも悪いの?」
心配そうに顔を覗き込むネコ娘に
鬼太郎はもう一度尋ねた。
「誰かと戦っていたような気がするんだけど・・・?」
「ホント今日は変よ?! 戦うって誰と戦うのよ!
ほらっ!見て!」
ネコ娘が鬼太郎を外へと導く。
そこには・・・
人間と妖怪が混ざり合い共に生活している姿があった。
人間の子供と一緒に学校に通う妖怪の子供、
大人は同じ職場へと出勤して行く。
そして、人間の家の隣に妖怪が住み、垣根越しに世間話をしているのだ。
今まさに、自分の目の前に鬼太郎と目玉の親父が目指し
夢見ていた理想の世界が広がっていた。
「ボクは・・・ボクはもう戦わなくても・・・いい・・?」
「そうよ、鬼太郎。もう戦う必要なんてないの」
まだ呆然と外の世界を見つめている鬼太郎に
ネコ娘が笑顔でその手を伸ばす・・・
ザクッ・・・・
鬼太郎がいつの間にそうしたのか、髪の毛を短刀に化え
ネコ娘の胸を突き刺した。
「ど・・・どうして?鬼太郎・・・」
ネコ娘の身体が崩れ落ちる。
鬼太郎の隻眼がそれを冷やかに見つめ、静かに言った。
「その顔、その声で、お前が気安くボクの名前を呼ぶな」
「いつから分かってた!!」
そう叫んだのは既にネコ娘の姿を保てなくなり、正体を現した
妖怪・夢魔だった。
夢魔は相手を理想の世界に閉じ込め、その生気を徐々に吸い取っては
殺していく妖怪だ。
「最初から・・・」
「嘘だ!俺は完璧だった筈だ!!」
その言葉に鬼太郎が薄い笑いを浮かべる。
「本当にお前は滑稽だなぁ・・・じゃぁ教えてあげるよ。
ボクのネコ娘の妖気はお前のように薄汚れたもんじゃないんだ。
それに・・・」
夢魔に近づき、鬼太郎は楽しそうな声色で囁いた。
「それに、お前からは彼女の甘い香りもしなかったしねぇ・・・」
最後の力を振り絞り、夢魔が鬼太郎に手を伸ばすが
その手を鬼太郎は蹴り上げた。
鬼太郎の隻眼にドス黒い殺意が宿る。
「ボクと父さんの夢を利用したことは許してあげるよ・・・だけど・・・」
鬼太郎の短刀が夢魔の喉を切り裂く。
「薄汚いお前が彼女の姿を映すなんて
万死に価する行為だと気付くべきだったよねぇ?」
夢魔の身体が消えると同時に辺りの景色が元のゲゲゲの森へと戻っていった。
本来なら命を取るほどの相手では無い・・・が
−−−化けた相手が悪かったんだと、地獄で反省するがいいさ・・・−−−
暗い森の中、ネコ娘の元へと下駄の音が消えていった・・・
終
閉じてお戻りください
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