「もういい!!結局鬼太郎は私のことが邪魔なのよねっ!!」
妖怪退治を依頼してきた人間の女の子に鬼太郎がデレデレしてた(様にネコ娘には見えた)事が
彼女の怒りにふれたらしい。
「誰もそんなこと言ってないじゃないか。
今回だってネコ娘が居てくれて本当に助かったと思ってるよ」
いつもならここで頬を緩めるネコ娘だが、今の彼女には彼のこの言葉も
【仲間として】の労いの言葉としか受取れない。
彼にとって自分はただの仲間・・・どう足掻いてもその現実は変えようがない・・・
「鬼太郎の気持ちはよ〜く分かったわ!
安心して!【妖怪退治の仲間】としての役割はちゃんと果たすから!!」
今にも涙が零れそうな潤んだ瞳を隠すように鬼太郎に背を向けると
森の奥、自分の家へと走り去ってしまった。
その後ろ姿を鬼太郎の隻眼が寂しげに見つめ、ポツリと呟く。
「キミはちっとも分かってないよ・・・」
走り去る彼女に手を伸ばせば、きっと捕まえられた・・・
でも・・・それでどうする・・・?
敵に自分のこの気持ちを知られれば、今よりずっと彼女の身を危険に晒すことになってしまう・・・
妖怪退治の仲間・・・ただの仲間・・・
敵の目にそう映っている限り彼女の命だけは守れる・・・
彼女の流す悲しい涙にこの胸が抉られても、彼女が無事ならそれでいい・・・
今はそれで・・・
−−−もっと強くなりたい・・・キミを守れる程、もっと強く・・・−−−
「なれるさ・・・すぐにね」
突然聞こえた青年の声とともに背後に強大な妖気を感じ、鬼太郎は振り返り驚く。
身長180cmはあるだろうその青年は左目を隠すように前髪を伸ばし
黒と黄のボーダーTシャツにジーンズという姿で穏やかな笑みを浮かべ
鬼太郎を見下ろすように立っていて、その横にはネコ娘を想わせる赤茶の髪を長く伸ばした
大きな瞳のスラリとした美形の女性が青年に寄り添う様に微笑んでいる。
「えっ?・・・ボク・・・?ネコ娘?」
目を白黒させる少年の鬼太郎に目線を合わせる様に女性が屈み込み、
楽しそうに口を開いた。
「そうよ。彼は貴方、ゲゲゲの鬼太郎・・・私はネコ娘。
・・・と言っても200年後の・・・だけどね!」
「でも・・・どうして?」
大人の女性の色香を漂わせたネコ娘が青年鬼太郎を振り返りニッコリ笑うと
少し照れた様に彼が頭を掻く。
「まぁ・・・ちょっとした旅行・・・かな・・・」
「ネコ娘・・・さんと二人で・・・ですか?」
彼等は未来の自分とネコ娘だが、やはり年上・・・知らず知らず丁寧な言葉遣いになる。
そんな少年に大人のネコ娘が面白そうにクスクスと笑う。
「そうよぅ。二人じゃなきゃ意味ない旅行なの」
二人でなければ意味のない旅行・・・?鬼太郎少年が首を傾げる。
「ホント、昔も今も鬼太郎は鈍感よねぇ・・・」
溜息雑じりのネコ娘の言葉に青年と少年、二人の鬼太郎が顔を見合わせ
苦笑いを零す。
−−−こっちの気も知らないで・・・−−−
ザザァーーーーーー・・・森を吹き抜ける風の向きが変わった・・・
青年鬼太郎が何かを感じ取ったように長い髪を靡かせるネコ娘の手を取り
立ち上がらせ、その胸に包んだ。
「もう時間だよ・・・これ以上ボク達がここに居たら未来が変わってしまう・・・」
長い髪を指で絡めながら彼女にそう囁く青年・・・二人の姿があまりに自然で
少年の隻眼が釘付けとなる。
「本当はね・・・遠くから昔の自分達を見るだけのつもりだったんだけど・・・
暫くしたら私・・・少女の私がちゃぁ〜んと謝りに来るから仲直りしてね。
だって私は今も昔も鬼太郎のことが大好きなんだから!」
「ボクも・・・です。・・・ボクもネコ娘が・・・」
森の奥から走って来るネコ娘の妖気を感じ、一瞬、鬼太郎がそちらに目を向け
すぐに戻したが、もうどこにも二人の姿を見つけることは出来なかった。
しかし、彼女の長い髪を絡める彼の指と彼の胸に手を添える彼女の指に
契約の証し・・・赤い糸が少年には見えた気がした・・・
木の影にこちらを窺うネコ娘の気配・・・その彼女に鬼太郎が聞こえる様に
「この間ネコ娘に貰ったハーブティー、煎れ方が分からないから飲めないなぁ・・・
父さん、飲みたがってるのに・・・残念だなぁ・・・」
そう言うと、ちょっと怒ったような顔でネコ娘が木の影からゆっくりと出て来た。
「・・・煎れてあげようか・・・?」
「うん。ネコ娘、ありがとう!」
鬼太郎の伸ばした手にネコ娘の手が絡み、二人はゲゲゲハウスへと走り出す。
遠くで、そんな二人を微笑みながら見ている彼等の気配を鬼太郎は感じ
ソッと呟いた。
−−−新婚旅行が過去の横丁なんて・・・全く二人らしいよ・・・ねぇ、ネコ娘・・・−−−
終
閉じてお戻りください
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